詐欺広告で誘導し、課金で回収、デジタル広告が陥った「信頼切り売りモデル」
いま、YouTubeやSNS上では、著名人の画像やAI音声を悪用した詐欺広告が急増しています。
広告審査をすり抜ける不正広告が日常的に流れ、「広告=詐欺」という認識がユーザーの間に広がりつつあります。
こうした状況にもかかわらず、広告プラットフォームは明確な対策を取ることなく、放置しているようにも見えます。
背景には、広告収益を優先したいという構造的事情があると考えられます。
◆「広告が不快なら課金を」有料誘導の構図
YouTube Premiumのようなサービスでは、月額課金により広告のない視聴環境が提供されています。
しかし一部のユーザーからは、「不快な広告が課金への圧力として利用されているのではないか」と疑問の声が上がっています。
広告の質を改善するのではなく、あえて現状のまま放置し、有料プランへ誘導する構造。
そうした“疑念”をユーザーに持たせてしまっている時点で、広告プラットフォームとユーザーとの信頼関係は揺らいでいると言えるでしょう。
企業側は「快適な視聴体験を提供するための選択肢」と説明しますが、そこに誘導の意図があるか否かは、もはや本質ではありません。
問題は、ユーザーがそう感じてしまう構造になっていることです。
◆成立しはじめた「信頼切り売りモデル」
このような状態は、もはや“信頼切り売りモデル”と呼ぶべきでしょう。プラットフォームは、ユーザーからの信頼を犠牲にしながら、短期的な広告収入と有料課金の両方を得るビジネスに傾いています。
しかしそれは、長期的に見れば確実に自らの首を絞める行為でもあります。ユーザーは広告を見ること自体を拒絶し、真っ当な企業は広告出稿を避け、結果として広告そのものの価値が崩壊していきます。
◆有料化では信頼は取り戻せない
デジタル広告がここまで不快で詐欺的になってしまった原因は、広告そのものの信頼性が崩壊していることにあります。そこに「広告なしで見たければ課金しろ」という選択肢を出されても、多くのユーザーは納得しません。
「嫌なものを排除するためにお金を払う」という構造は、サービスへの愛着ではなく、消去的な動機です。結果として、有料プランを使う人も根本的にはプラットフォームを信用しておらず、じわじわと離れていくリスクをはらんでいます。
◆広告は“信頼で回す経済”であるべきだった
本来、広告は信頼の上に成り立つものでした。ユーザーが「これなら見てみよう」と思える情報であり、企業と生活者をつなぐコミュニケーションの一部であったはずです。
しかし、詐欺的な広告が当たり前になり、広告を排除する技術(アドブロック)までも普及し、さらに不快さを逆手にとって課金を促す構造が広がる今、広告は「嫌われる存在」へと転落しています。
この構造が続けば、広告産業そのものが社会から信頼されなくなり、結果的に“信頼で成り立つ広告経済”は崩壊するでしょう。
健全な広告の未来を取り戻すためには、「信頼を売る」のではなく、「信頼をつくる広告」への再構築が必要です。それは短期的には収益が落ちる道かもしれませんが、長期的には広告産業が生き残るための唯一の道です。
2025.5.31
甘夏ニキ