減反政策のその先へ、新しい農業補償のあり方とは

◆ 減反政策の歪み

2018年、日本では国による減反政策(生産調整の配分制度)が形式上は廃止されました。
しかし実際には、飼料用米や麦・大豆への転作に対する交付金が依然として存在し、「作らないことを促す仕組み」が温存されています。

一見すると自由化されたかのように見える稲作ですが、現場ではいまだに「調整される前提」の空気が根強く残っており、農家も国民もこの構造に無意識のうちに慣らされてしまっているのが現状です。

その結果、国民は「税金で米の供給を減らされ、高くなった米を買い、しかも自給率は下がる」という逆転現象に巻き込まれています。

この状態は果たして本当に望ましいものなのか?
誰のための制度なのか?
いまこそ、その根本的な問い直しが求められています。

◆ 「つくる人」を支える制度への転換が不可欠

現行の制度は、転作や作付け放棄といった“減らす努力”に対してインセンティブを与える設計です。
しかしこれでは、「つくる努力」を続ける農家ほど経営が苦しくなり、農業の未来から背を向けるしか選択肢がなくなってしまいます。

求められているのは、「やめるか続けるか」の二者択一ではなく、
「つくりながら変わる」「挑戦しながら支えられる」第三の選択肢です。

農家が自ら判断し、経営の意思を持って挑戦できる環境。
それを支える制度こそが、次代の農業の基盤となるべきです。

◆ 新しい個別所得補償制度の設計構想

その基盤の一つとして、改めて検討すべきなのが「個別所得補償制度」です。
これは、市場価格の変動によって生じる所得リスクを緩和する仕組みです。

たとえば、市場価格が一定の「基準価格」(地域の平均的な生産費+適正利潤)を下回った場合に、
その差額の一定割合(80〜90%など)を補填する設計が考えられます。

この制度は米に限らず、麦・大豆など他の基幹作物にも拡張可能であり、
日本の農業全体の基礎体力を支えるインフラとなりえます。

補償対象も、農業法人や大規模経営体だけでなく、
小規模農家・兼業農家・集落営農など、多様な担い手を含めることが前提です。

帳簿提出など一定の要件を設けることで、制度が単なる「ばらまき」とならない設計も可能です。

この制度は単に農業を「保護する」ためではなく、
挑戦や創意工夫を“安心して行える”環境を整えるための制度であるべきです。

◆ 「挑戦する農業」を支えるために

この新しい制度の本質的な価値は、従来型の農業を“守る”ことではなく、
変わろうとする農業者を制度的に後押しする点にあります。

たとえば、こんな取り組みが対象となり得ます:

  • 高付加価値作物への転換
  • 小ロットでの加工品製造や直販モデルの導入
  • 地域資源を活かした観光・体験型農業への展開
  • 教育・福祉・ウェルネスと融合した複合型農業モデルへの挑戦

こうした新たな取り組みには、ノウハウや販路開拓などの支援が不可欠です。
そのため、以下のような制度的環境整備も重要となります:

  • 新作物・加工品開発への専門家派遣や開発支援
  • ブランド化・体験型プログラム構築への補助金・助成制度
  • 商品設計・マーケティング・デザインなど実践研修の提供

これらの支援は、行政だけでなく民間が担う部分もありますが、
その“挑戦を支える仕組み”を用意することこそが行政の責任です。

単なる補助金ではなく、持続可能で挑戦可能な農業の基盤づくりが求められています。

◆ おわりに

これまでの日本の農業政策は、「守ること」が前提となってきました。
減反政策に象徴される

ように、作らないことで支援を得る制度や、農地の流動化を妨げる農地法の規制は、農業を守ってきたように見えて、実は農業を“閉じ込めてきた”側面も否めません。

結果として、日本の農業は自由に挑戦しづらく、意欲ある農家ほど疲弊していく構造になってしまったのです。

農業は本来、変化と挑戦の連続です。
その挑戦を後押しする制度こそが、次代の農業を支える本当の「守り」となるのではないでしょうか。

2025.6.6
甘夏ニキ

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