地方創生のカギは農業にあり、農業の可能性と課題を探ってみた

キャベツ畑
 群馬県嬬恋村のキャベツ畑   画像素材:PIXTA

今回は農業の可能性と課題についてご紹介したいと思います。
これから日本は、少子高齢化で地方は過疎化し衰退していくという暗い話題を良く耳にします。農業においても高齢化が進み、若い就農者不足に悩まされています。それに伴い耕作放棄地も年々増えていっています。しかし農業は地域経済の活性化に欠かすことのできない可能性を秘めており、農業の課題を解決することは、地方の課題を解決することと同じなのです。地方創生が謳われる昨今、農業は地方創生のカギと言えます。

地方創生に必要なこと

地方の課題は少子高齢化に伴う人口減少と言われていますが、筆者はあまり人口減少を気にしていません。むしろ人口が多すぎると思っているくらいです。筆者は熊本県在住ですが、車が少ない山道や海辺をドライブすると大自然に囲まれ実にいい気分になれます。田舎は、田舎らしいほうが、魅力的なのです。では人口の少ない地方はどうやって活性化していったらよいのでしょうか。
地方の活性化とは何も地域人口を増やすことだけではありません。大事なのは地域経済の活性化です。企業や個人が地方で利益を出せることが重要なのです。そのため筆者は下記の2点に着目しています。

商品やサービスの高付加価値化(つまり…ブランディング) 
自然体験型観光コンテンツの拡充(つまり…体験型ビジネス

人口減少社会では、より安くを追い求める薄利多売は逆効果です。①の高付加価値化で商品やサービスをブランディングし利幅を厚くする必要があります。②の自然体験型観光コンテンツはいわゆる体験型ビジネスと言えるもので、モノではなく体験を提供するビジネスです。ダイビングや無人島ツアー、雪山登山など様々なものがあります。日本は四季折々で雪国から南国まで各地域ならではの文化に手軽に触れることができ自然体験型観光コンテンツに最も適した国と言えます。さらにSNSが発達した近年は、体験談は即座にシェアされます。ユーチューブでキャンプブームが訪れたのもSNSのおかげでしょう。こうした体験型ビジネスは、利用者の体験満足度を高められれば、価格納得性が得やすく①の高付加価値化も可能で、地域経済の活性化に繋げられます。人口が少ない田舎でも、大自然に囲まれた隠れ家にポツンと超高級カフェがあると行ってみたくなるものです。

キャンプ場
長野市の戸隠キャンプ場    画像素材:PIXTA   

農業は地方創生との親和性が高い

高付加価値化や体験型ビジネスへの取り組みは農業が最も適しているといえます。現状、国の農業政策は農地の集積集約を行うことによる大規模化を推し進めています。大規模化は売上利益を伸ばす意味で合理的な手法ですが、近年では小規模の農家でも利益が出やすい環境も整ってきました。道の駅での販売やインターネットを介したEC(電子商取引)がそうです。JAや卸業者を通さず農産物を直売できるため、生産者自身が価格を設定できます。特にインターネットを使ったECは自身が作った農産物をブランディングすることもでき、利益が出やすい販売手法と言えます。
体験型ビジネスにおいても農業は非常に高い可能性を秘めています。近年では都市部への人口集中の反動なのか、逆に、田舎暮らしをしたい!農業体験をしたい!自分で野菜を作りたい!といったニーズがかなり増えてきています。そんなニーズに答えるのが観光農園、貸し農園です。観光農園は、顧客に対して果物狩りなどの収穫体験などの農業を体験・観賞させて、対価を得る農園のことをいいます。最近ではその地域ならではの特産物を扱った農家レストランのほか、カフェなどを併設した農園もできており、バーベキューや収穫した食材を調理するなどのレジャーとしての楽しさもあります。一方、貸し農園は農業従事者でない一般の利用者に農地を貸し、農作物を自ら栽培できる農園です。貸し農園の呼び名は様々で、シェア畑やレンタル農園、市民農園などと呼ばれています。農園には農機具や休憩所などを併設しているところも多く、日帰り型から滞在型まで様々です。
キャンプブームも訪れているくらいですから、こういったアウトドア系の観光農園、貸し農園は今後益々おもしろくなりそうです。

市民農園
     横浜市青葉区の市民農園    画像素材:PIXTA  

ここで、農業で利益を上げていくポイントをおさらいするとこうなります。

農地の大規模化
小規模高付加価値化(つまり…ブランディング)
観光農園、体験農園の拡充(つまり…体験型ビジネス)

このことから儲かる農業に必要なことは地方創生に必要なことと同じだということがわかります。地方を活性化するには農業を活性化しないといけないということです。

問題は労働力不足

これだけ可能性を秘めた農業ですが、労働力不足は深刻です。
平成27年に65歳以上の基幹的農業従事者(主に農業に従事している人)の割合が64.9%であったのが令和2年には69.6%まで上昇、この5年間で全体の基幹的農業従事者数は175.7万人から136.3万人に激減しました。農業の高齢化率からみると、今後、農家の減少は益々大きくなりそうです。同時に耕作放棄地もどんどん増加していっています。国は農業の大規模化の為、耕作放棄地などを活用した農地の集積集約を進めていますが、農家の減少スピードが圧倒的に大きく、特に中山間地域の農地は集約化が難しく耕作放棄地となっているケースが増えています。新規就農者を増やさずに農業の未来はありません。
新規就農者には国が“農業次世代人材投資資金”などの助成金を通じて手厚いサポートを行っており、その甲斐あって新規就農者は着実に増えていますが、全体の農業従事者の減少には全く歯止めがかかっていません。

新規就農者を増やすためには特措法の拡充が必要

新規就農者にとってネックなのは農地法の壁でしょう。誰でも簡単に農地の売買や貸し借りは出来ませんし、農地の権利を得たもの以外は農作物の販売も出来ません。
また、良くも悪くも農地法という壁が農業分野のビジネスの幅を狭めている一面もあります。農地法は農地を守る法律で、農地の売買・賃貸借・転用を行う場合、要件をすべて満たして各自治体の農業委員会の許可を得なくてはなりません。そのため、一般人が普通の不動産を見つけるような感覚で農地の貸し借りや購入は出来ませんし、農地を宅地に変えるなど地目変更も勝手にできません。
農地法は、農地を農地として売買・賃貸借する場合、農地法3条の要件を満たす必要があります。特に新規就農を目指すうえでネックになるのが農地の下限面積でしょう。農地の売買・賃貸借の権利を取得するためには最低50アール(5000m2)の面積が必要です(すでに農家で50アール以上農地の権利を持っているのであれば関係ありません)。これは、がっつり農業一本で農地を大規模化してやっていきたいという思いの新規就農者にとっては問題ないことかもしれませんが、サラリーマンとの兼業を目指す新規就農者や大規模より小規模高付加価値を目指す新規就農者にとってはかなりの壁となります。
こんな厳しい農地法ですが、より簡単に農地を賃貸借できる「農業経営基盤強化促進法(以下、基盤強化法)」という特措法もできており、農地の賃貸借に関する利用権設定では下限面積を設けていない市町村がほとんどです。この特措法のおかげで農地を借りる場合のハードルがかなり下がりました。一方、農地売買に関する所有権移転は下限面積を農地法3条と同じ50アールとするところが多いようです。基盤強化法はあくまで農地の貸し借りをしやすくする特措法と言えます。
ここで、一つ疑問が出てきます。貸し農園は不特定多数の人に農地を貸して農作物を栽培しているのに大丈夫なのか?実は貸し農園の場合「特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律(以下、特定農地貸付け)」に当てはまっておかなければなりません。農地法3条や基盤強化法の利用権設定とはまた別物です。特定農地貸付とは農地の賃貸借ではなく農地の貸付けです。農地の貸付けでは“営利を目的としない農作物の栽培の用に供するための農地の貸しつけであること”と謳われています。つまり、作った農作物は販売できないということです。貸し農園の利用者は農園で栽培スキルは磨けても販売スキルを磨くことはできません。貸し農園で作った農作物を販売できるようになると、貸し農園から本格的な新規就農への道を目指す人が多くいそうな気がします。また農地を不動産会社を通じて手軽に売買・賃貸借できれば農業ビジネスの幅も広がりますし爆発的に新規就農者が増えそうな気もします。そのためには、農地法の見直しや基盤強化法の様な特措法の拡充が必要になってくると思います。
農地は農地として守っていかなければならないのは当然ですが、農地として農作物の栽培に利用するのであれば、もっと手軽に売買・賃貸借できる仕組みがあっても良いのではないかと感じます。

農業の未来に必要な3つのプラットホーム

筆者は、農業への敷居をもっと下げ新規就農者が就農しやすい環境づくりの為、3つのプラットホーム(ビジネスの場を提供するもの)の整備が必要だと感じています。この3つが整備されると農業従事者は確実に増え、農業関係ビジネスも活性化し、農業市場は大化けしそうな感じがします。

農作物を売るプラットホーム…大規模⇒JA、卸市場、卸業者 小規模⇒直売所、EC
農作物を作るプラットホーム…農地バンク 貸し農園等(但し農地法や特措法の拡充が必要)
雇用のプラットホーム…人材マッチングアプリ

これまで農家が作った農作物の売り先はJAが担ってきました。その点ではJAは農業界最大のプラットホームでもあります。しかし最近はECによるネット販売も可能になり、ネットを通じた様々な直売ルートができてきています。“ポケットマルシェ”や“食べチョク”というサイトがそうです。農作物を大量に扱う大規模農家はJA、小規模農家はECという棲み分けもできるようになりました。こうしたことから①の農作物を売るプラットホームはかなり充実してきたといえます。
そして③の雇用のプラットホームですが、最近人材マッチングアプリがどんどん登場してきています。“農How(ノウハウ)“や”農mers(ノウマーズ)””タイミー“などです。すぐ働きたい人と、すぐ人手がほしい事業者をマッチングするサービスです。登録さえしておけばすぐ利用することができます。農業では繁忙期と閑散期の差が激しく、特別な資格や専門知識を必要としない作業も多いため人材マッチングアプリとの親和性がかなり高いといえます。働き方改革が叫ばれている現代において、もしかするとこの手の人材マッチングアプリによる勤務体制がこれからの社会の主流になってくるのかもしれません。
最後に②の農作物を作るプラットホームですが、この整備が課題と言えます。ここでいう作るプラットホームとは、農業従事者の農地確保のことを指します。前項で触れたように農地確保には農地法の壁があります。農作物を販売するルートは充実していても、肝心の農地を確保するルートは十分とは言えない気がします。
現状、農地を探す場合、農地中間管理機構による農地バンクの利用が有名ですが、農地バンクは、基本的に農地の賃貸借のみで売買を行っていません。そのため農地バンクはうまく機能しているか疑わしいといえます。よく農地バンクは借り手側が圧倒的に少ないといわれていますが、筆者の経験上、全く逆で、貸し手側が圧倒的に少ない感じがします。これは農地バンクが売買を行わず賃貸借のみを行っているため、良い農地の貸し借りはすでに地元の農家同士で決まってしまっているからだと思います。
新規就農を目指す方の中にはできれば兼業で始めて、軌道に乗れば専業を目指したいという方が実はかなりの数いらっしゃると思います。
前項の貸し農園の話を例にとると、利用者が貸し農園でスキルを学びながら、そこで作った農作物が販売できるようになれば、それだけで、農業にチャレンジしてみようという新規就農者はどんどん出てきそうです。うまくブランディングできれば、利用者は複数の貸し農園から農地を借り入れ大きく利益を上げることもできるかもしれません。貸し農園側は、全国の耕作放棄地をどんどん買い取る必要が出てきます。貸し農園側にはフランチャイズ化(加盟店制)という道も出てきます。また、貸し農園の農地を利用者に販売できればある意味不動産業も兼ねているといえます。しかもただの不動産ではなく、利用者がいなければ、自ら耕作し農作物の生産を行うこともできます、もういうことはありません。
…と、ここまでくると、かなり法的に無理があります。しかし農地法の見直しや特措法の拡充があれば、どこまでも農業ビジネスの幅が広がるということがわかっていただけたかと思います。

まとめ

儲かる農業に必要なこと

農地の大規模化
②観光農園、体験農園の拡充(つまり…体験型ビジネス)
小規模高付加価値化(つまり…ブランディング)

新規就農者・農業従事者を増やすための環境整備

農作物を売るプラットホーム…大規模⇒JA、卸市場、卸業者 小規模⇒直売所、EC
農作物を作るプラットホーム…農地バンク 貸し農園等(但し農地法や特措法の拡充が必要)
雇用のプラットホーム…人材マッチングアプリ

繰り返しになりますが、農業従事者が激減している今、必要なのは、いかに手軽に農業に従事できるかです。3つのプラットホームを機能させるうえで、農地法の見直し、特措法の拡充は必須と言えます。そうすれば農業分野の裾野は広がり、新規就農者も増え地方創生に弾みがつきます。

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