中国経済の今後~恒大破綻と倒産ドミノについて考える

深セン市の街並み
恒大集団が本拠を置く深セン市  画像素材:PIXTA

最近、金融市場を揺るがしている中国恒大集団(日本語読み:ちゅうごくこうだいしゅうだん)破綻危機、今回はこの中国最大手の不動産会社の破綻リスクとその影響を探ってみました。

結論から言ってしまえば、個人的には破綻はするが、中国政府が“最低限”なんとかすると思っています。あくまで最低限です。金融市場への影響は一時的と思われますが、投資家は、しばらく一喜一憂することでしょう。

しかし実は中国政府のこの“最低限の救済”というのがポイントで一歩間違えばリーマンショック級になりかねない危うさをはらんでいます。

目次

恒大破綻の可能性

中国政府が支援しなければ、はっきり言って、ほぼ破綻は免れないでしょう。直近の利払いができるかの否かの自転車操業状態です。

恒大集団は総資産こそ40兆円と巨大ですが、すでに負債が33兆円に達しています。現金は1兆円しかありません。しかし直近だけ見ても数週間以内に返済しなければならない利払いが数百億円あります。利払いできなければ破綻です。しかも中国政府は今年に入り不動産バブル抑制のため金融機関に対し不動産向け融資に制限を設ける総量規制を設けました。これにより恒大集団は融資を受けたくてもどこも貸してくれず窮地に陥っているという訳です。

破綻した場合の影響

最悪のシナリオを想定してみましょう。負債の33兆円を返済するため、恒大集団は資産の不動産を投げ売りしなければなりません。つまり不動産価格の暴落です。これまで中国経済を牽引してきた不動産セクターに大混乱が生じます。ビルやマンションの建設はストップし、次々に関連企業が倒産、銀行は不良債権処理に追われるかもしれません。株式市場にも混乱が生じ世界同時株安が発生、不動産で儲けてきた富裕層はあっという間に姿を消します。アフターコロナに期待される中国人の爆買いという言葉も死語になっているかもしれません。日本にとって最大の貿易相手国である中国の急減速は、日本経済の急減速を意味します。

この危機は、まさにバブル崩壊時の日本とそっくりなのですが、実際は不動産価格の暴落こそせよ、金融市場への影響は限定的かもしれません。なぜなら中国の商業銀行は不良債権率1%台で自己資本比率も10.5%以上(日本の基準は4%以上)を維持しなくてはならない為、銀行の業務体質としては割と盤石です。バブル崩壊後の日本のような銀行の貸し渋りや貸しはがしが起こりにくいといえます。また、貿易に関しては日本の中国向け輸出のほとんどは電子機器や部品で、中国自体が外貨を稼ぐため輸入し組立てて生活必需品として輸出しているものです。仮に日本が影響を受けるとすれば建設関連で使用している鉄骨などの鋼材でしょう。輸出の割合からすると2%です。スクラップ相場は暴落するかもしれませんが、日本全体でみると大きな影響は考えにくいとも言えます。

とは言え、倒産ドミノが発生すると、どこまで中国の商業銀行が耐えられるか未知数です。常に最悪のケースを想定しておくことも必要です。

中国政府の対応

市場の中には、破綻したらその影響がとんでもなくなるので、中国政府が救済するのではとの楽観的な見方もあるようですが、そう簡単ではありません。

中国は経済成長の過程で大きな格差が発生しました。それは、日本の格差社会とは比べ物になりません。中国共産党は格差是正のため「共同富裕」をスローガンに本腰を入れて取り組む姿勢を表明しています。これは、富を分配して皆が豊かになるという考えです。つまり富裕層から低所得者層への富の移動です。格差の広がりは国民の半分を占める低所得者層の不満に繋がっています。来年は習近平政権異例の3期目迎えます。なんとしても共同富裕を実現させ人民の信認を得たいと考えているはずです。このような中で、不動産バブルで富を築いてきた恒大集団を救済することは、共同富裕の理念に反し、貧しい人民の大多数から批判が噴出しかねません。

また、中国政府は不動産価格を正常化したいとの思いもあり、この点も救済に前向きではない理由と言えます。中国の新築マンション価格は高騰を続け、今や深セン、上海、北京のマンション価格は東京の価格を超えています。3都市の労働者の平均年収が150万円程ですのでマンションを買いたくても買えない人々が大勢いる状況なのです。

一方、恒大破綻を黙認し、なんの救済措置も取らなかった場合、金融システム障害を生じさせ、最悪、中国経済が立ち直れなくなる恐れすらはらんでいます。

このことから、中国政府は全面的な救済はしないというスタンスをとりつつも、金融市場の動向を伺いながら必要に応じ最低限の支援はしていくと考えています。

まずは、恒大自身が債権者と協議を重ね債務整理を実施、同時に人員整理・事業売却などの会社再生を期待したいところですが、それでも破綻は免れないでしょう。破綻までは中国政府による介入は、ほとんど期待できませんが、市場の動向を見ながら、債権交渉がスムーズに進むよう少なからず何らかのアクションはとってくるかもしれません。ただ中国政府が、最も懸念しているのは破綻後の不動産の投げ売りです。全てを投げ売りすることは不動産市場の暴落に繋がります。不動産バブルを軟着陸させたい政府の意向に反するため、どこまで投げ売りできるかが重要になってきます。これはつまり、債権者にどこまで借金返済をあきらめてもらえるかということです。このシビアな部分に政府は何らかの介入をしてくるはずです。

中国は今、経済成長の牽引役を“投資”から“消費”に変えるべく大変革期に突入しています。共同富裕の理念のもと不動産バブルを軟着陸させられるか否か。恒大破綻危機もこうした構造改革の過程で起こるべくして起きた危機と言えます。習近平指導部は非常に難しい舵取りを迫られています。

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