SDGsの要 サーマルリカバリー

 今回は環境問題やSDGs(読み:エスディージーズ)から日本企業のビジネスチャンスの可能性を探っていきたいと思います。

 筆者が子供のころは環境問題というと、光化学スモッグやそれに伴う酸性雨、焼却場からのダイオキシンの問題なんかが良く話題になっていたものです。近年は海洋プラスチック汚染と地球温暖化対策が直近のテーマとなっています。

 そんな環境問題に対する答えの一つとして、サーマルリカバリーというものがあります。これは、焼却した際の熱をエネルギーに変える、熱回収のことで、身近な事例で言うと、廃棄物発電、いわゆる、ごみ焼却発電があたります。今回は、熱回収の可能性、また環境技術を通しての日本企業の強みと、方向性について解説していきたいと思います。

□環境問題とSDGs

 現在、世界的な環境問題として、海洋プラスチックごみによる海洋汚染と温室効果ガスによる地球温暖化が社会問題として取りざたされています。

 国内外で、プラスチックの資源循環の動きやCO2を抑制する脱炭素社会への政策が次々に打ち出されています。

 これら、海洋プラ問題と、脱炭素社会は最近話題のSDGsの目標にも謳われる重要なテーマとなっています。

 SDGsは持続可能な開発目標のことで、2015年、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた17のゴール、目標です。

□廃プラスチックのゆくえ

 現在、問題になっている海洋プラスチック汚染ですが、そもそも廃棄されたプラスチックはどこに行くのでしょう。

 世界のプラスチック生産量は年間3億トンを超え、回収されたプラごみの9%がリサイクル、12%が焼却、79%が埋立又は海洋投棄と言われています。79%の内訳は大半が埋立ですが、不法な埋立や所在が分からなくなっているものも多く、毎年800万トンのプラごみが海洋に流出しているといわれています。

□日本のプラスチックリサイクル事情

 日本のプラスチックマテリアルフロー図を見てみましょう。図は2016年となりますが、2021年現在もプラスチックの生産量や有効利用量には大差がないため、2016年を基準に、ざっくり説明します。

 日本のプラスチック生産量は年間1100万トンで、その内、一般系産業系合せて年間900万トンが回収されています。ちなみに前項で年間800万トンのプラごみが世界中の海に流出していると述べましたので、毎年日本のプラスチック回収量に匹敵する量が海洋に流出している計算になります。

 日本で回収される900万トンの行く末ですが、再生材などのリサイクルが240万トン(27%)、化石燃料の代替えとしてボイラーや発電に利用されるサーマルリカバリー、いわゆる焼却後の熱回収が520万トン(57%)、単純焼却や埋立などの未利用が140万トン(16%)となっています。

 リサイクルプラの240万トンをもっと詳しく見てみましょう。240万トンの内、ペットボトルからペットボトルへ、のような再生利用と言われるマテリアルリサイクルが205万トン、合成ガスや分解油などの化学原料にもどすケミカルリサイクルが35万トンとなります。このマテリアルリサイクルの205万トンの内、毎年およそ150万トンが海外、主に中国に輸出されていました。しかし2017年、中国や東南アジア諸国がバーゼル条約を機に輸入を禁止したことで、国内で150万トンのプラスチックの行き場がなくなったことは記憶に新しいのではないでしょうか。現在は、一部を輸出可能な国へ輸出し、残りは熱回収比率を高めるなどして対応しています。

 いずれにせよ、日本では回収プラの27%がリサイクル、熱回収まで含めると84%が有効利用されていることになります。これはアメリカの有効利用率25%(リサイクル9%、熱回収16%)や欧州の有効利用率平均73%(リサイクル31%、熱回収42%)を上回ります。     

 ただし欧州は、ドイツなど埋立制限を施行されている国も多く、そのような国はリサイクル率や熱回収を含めた有効利用率が日本より高い国もあります。

 ちなみに、よく日本のリサイクル率は欧州より低いと聞きますが、それは、可燃ごみや資源ごみといった、いわゆる都市ごみまで広げた場合で、リサイクル率は、日本が20%、欧州は50%となります。これは、日本が、生ごみは可燃ごみとして焼却・熱回収しているのに対し、欧州は、堆肥としてリサイクルしている国が多いためです。

□サーマルリカバリーの価値を高めて

 日本や欧州などの先進国は、環境中にプラスチックが流出しないようによく管理されたシステムが出来上がっているといえます。ですが、マテリアルリサイクル向けとして輸出しているプラスチックが適正に管理されない国であれば、海洋に流出している可能性もあります。もっとも、バーゼル条約以降、輸入規制をする国が増えてきていることもあり、このような懸念は、いずれなくなるでしょう。しかし、この輸入規制により、先進国でプラスチックの滞留という影響が出てきています。この問題は、日本だけでなく欧州も同じです。ならば国内で再生材は使用できないのか?と思われるでしょうが、日本や欧州では毎年プラスチックの生産量は、ほぼ横ばいで、プラスチック製の工業製品等には高品質のプラスチック原料が要求されるため、再生材を使用できる量が限られています。逆に中国に関しては、日本の10倍のプラスチックを生産しており、その量は年々増加しています。バージン原料より価格の安い再生ペレットが増量剤として大量に必要となり、直接原料として使用できる再生ペレットは現在でも輸入しています。先進国としては、自国で再生ペレットまでマテリアルリサイクルをし、中国に輸出したいところですが、再生ペレットまで加工すると人件費の影響でコストがあわないという問題も発生しています。

 そこで、世界的に見直されているのがプラスチックを燃料として使用するサーマルリカバリー、熱回収です。日本では以前、サーマルリサイクルと呼ばれ、あくまでリサイクルの位置づけでしたが、近年国内でも、欧米同様の熱回収を意味するサーマルリカバリーやエネルギーリカバリーという言葉に置き換えられています。

 これは、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと違って、再資源化しても、燃料として一度きりしか使用しないため、リサイクルつまり循環していないという理由からです。そのため、サーマルリカバリーはマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルに比べ環境価値が低いと認識されているのです。しかし、化石燃料を節約する省資源という意味ではサーマルリカバリーは大いに意味があります。

 そもそも、世界の石油資源の80%は自動車や発電所などの燃料や熱源として利用されており、20%が化学製品、その化学製品の内、プラスチックになるのはわずか6%です。つまり石油資源のほとんどは、燃料として使用されているのです。石油資源を削減し温室効果ガスを減らすには、プラスチックをリサイクルするより自動車の電動化や発電所を再生可能エネルギーに代替えしていくことが、最も効果的なのです。しかも、プラスチックを再生材としてリサイクルすることも、燃料としてサーマルリカバリーすることも石油資源節約という意味では同じです。ただし将来に渡っては途上国の成長と共にプラスチックの使用量は益々増加していきますので、石油資源のプラスチックに占める割合は確実に増加していくことになります。そうなるとプラスチックは、サーマルリカバリーより再生材としてリサイクルしたほうが確実に環境負荷低減につながります。

 いずれにせよ、現時点ではサーマルリカバリーは、滞留したプラスチックに対する最も経済合理性がある環境負荷対策といえます。

SDGsのゴールに向けて

 途上国では廃棄物処理にかけるお金がなく、埋立という名の、ごみ山が無数に存在しています。ごみ山では、有害物質の流出の危険や、地中火災の危険、海洋へのごみの流出、メタンなどの温室効果ガスの発生など、環境衛生上好ましくない状態が続いています。これらのごみ山にはウエストピッカー、通称スカベンジャーと呼ばれる、ごみ山で暮らし、お金になる鉄くずやペットボトルなどを探して生計を立てている人たちがいます。廃棄物管理の制度も確立されてない途上国においては、彼らはある意味、循環システムの一翼を担っている貴重な存在ともいえます。とはいえ、日々発生するごみの量は途上国の経済発展と共に増え続けています。

 ウエストピッカーにより一部は再生材として分別されても、大量のごみは残ります。この解決策にはサーマルリカバリー、とりわけ廃棄物発電しかありません。廃棄物発電は、都市ごみを焼却した際の、高温・高圧の蒸気でタービンを回すことで発電を行うものです。廃棄物発電はCO2排出係数も少なく、持続可能なエネルギーと位置付けられています。

 一人当たりGDPが2,000~3,000ドルと経済的に豊かになりつつある一部の途上国では廃棄物発電や資源物分別など廃棄物循環システムの制度整備に前向きな国も多くなってきています。

 廃棄物からエネルギーが生まれ、雇用も創出され、環境負荷も小さい。まさに廃棄物発電などのサーマルリカバリーは、SDGsの17のゴールのほとんどを網羅する、持続可能な社会になくてはならない存在と言えます。

□日本が目指す環境ビジネスは?

 SDGsやパリ協定などで、これから環境ビジネスの分野は大きな変革期を迎えようとしています。日本の環境技術は優れていると、たかをくくっていると、知らない内に取り残されているという事になりかねません。特に中国メーカーは脅威です。

 日本メーカーの廃棄物発電施設は有害物質の無害化や発電効率など技術面で優れているものの、価格面では中国メーカーにかないません。それでも、現在、日立造船やJFEエンジニアリングなどの日本メーカーは廃棄物発電受注において世界トップシェアを誇っています。しかし今後、中国メーカーは価格競争力で優位に立ち、途上国を中心に廃棄物発電施設を次々に受注していくでしょう。あわせて中国国内で増大するプラスチック生産量を補うため海外に工場を建設し再生ペレットを輸入し始めるでしょう。そして中国資本に中国主導の廃棄物管理システムを構築されると日本メーカーの立ち入る隙はなくなります。そこまで中国は国策として考えているはずです。

 では、日本はどうすればよいのか。日本も得意としている廃棄物発電などサーマルリカバリーを柱に、国内で培った分別収集システムを応用し、途上国の廃棄物循環システムづくりに参加すべきです。とりわけ、経済成長とともに、ごみ問題に直面している東南アジア各国へ、官民一体で協力していきたいところです。しかし、官民一体で…という言葉はよく聞きますが、まだ、官の発信力はない気がします。国が提示したプラスチック資源循環戦略では野心的な目標を定めていますが、先般実施されたレジ袋有料化も世界の基準からすると遅れており、目新しさがありません。「日本のサーマル技術で世界のごみ問題の受け皿を造る」くらいのことを国際会議の場で発信しなければ日本に目も向けてもらえないでしょう。

 そんなサーマルリカバリーには廃棄物発電以外にRPF(廃棄物固形燃料)の製造という方法もあります。このRPFを活用するのも一つの手段です。売り込む…のではなく日本が購入するのです。

 RPFは廃棄されたプラスチックや紙類を粉砕固化して出来る再生燃料です。カロリーは石炭ほどあり、石炭の代替燃料としてすでに国内では流通していますが、海外では、まだほとんど知られていません。

 インドネシアやマレーシアは、これまで石油の輸出で外貨を稼いでいましたが、脱炭素社会で化石燃料も売れなくなります。そこで、物価の安い途上国でRPFを生産し、日本が輸入し途上国を支援してはどうか。輸入したRPFは、あえて国内の石炭火力発電所で使用する。これから脱炭素化で廃炉が進む石炭火力発電所の有効活用にもなります。石炭火力発電所でのRPFの使用は前例がないものの技術的には出来るはずです。こうしたサーマルリカバリーの活用は、少なくとも国策としてのインパクトがあります。

 官の発信力に、民のチャレンジ精神も必要になってきます。すでに途上国の廃棄物循環システムづくりに、日系企業の海外進出を後押しする制度もあります。二国間クレジット制度(JCM)です。

 二国間クレジット制度は、日本から途上国に脱炭素技術等の普及や緩和活動を通じて、途上国で削減された温室効果ガスを日本の削減目標達成に活用できるという制度です。これまで、この制度を活用し、いくつかの日系企業は海外進出をしています。しかし多くは、太陽光発電設置などの取り組みで、廃棄物発電やリサイクル施設に関する事例は少なく、今後の日系企業に期待したいところです。

□まとめ

 SDGsの17のゴールにはサーマルリカバリーは欠かせません。とりわけ廃棄物発電は有望視されています。途上国にも日本メーカーにもメリットがあり日本主導で、国内で培ってきた循環システムを海外に広げることができます。ぜひとも官民一体で海外市場を目指してほしいものです。

2021年7月11日

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