価値連鎖が導く持続的成長“点”ではなく“流れ”で捉える経営

◆価値連鎖とは何か

価値連鎖(Value Chain)とは、ハーバード大学のマイケル・ポーター氏が提唱した、企業活動を「価値の流れ」として捉える考え方です。製品やサービスが生み出され、顧客に届くまでの一連のプロセスの中で、どこで価値が生まれ、どこにムダがあるのかを分析するためのフレームワークです。

価値連鎖は大きく2つの構造に分かれています。

【1】主活動(Primary Activities)

製品・サービスを顧客に届けるための直接的な活動です。

  • 購買物流(原材料・部品の受入れ、保管)
  • 製造・業務運営(加工・組立・サービス提供など)
  • 出荷物流(保管・配送・納品)
  • 販売・マーケティング(営業活動・広報・価格設定)
  • サービス(アフターサポート・顧客対応)

【2】支援活動(Support Activities)

主活動を支える間接的な基盤的業務です。

  • 全社管理(戦略・財務・法務・情報管理など)
  • 人材管理(採用・育成・評価・労務)
  • 技術開発(商品・サービス開発、業務改善)
  • 調達(設備・外注先の選定など)

このように、企業は単体の工程で勝っているのではなく、価値を連鎖的に生み出す“流れ”の中で勝っているという視点を持つことが重要です。そしてこの視点こそが、現場の改善だけでなく、成長戦略全体に深く関わってきます。

◆全体が見えると“点”が意味を持つようになる

多くの企業では、「営業力が強い」「品質が高い」といった、特定の“点”における強みが語られることがよくあります。しかし、その点が本当に独立して価値を生んでいるのか、あるいは他の工程に支えられて成り立っているのかは、全体の流れを見なければわかりません。

たとえば、営業部門が好成績を上げているように見えても、実際には製品開発やカスタマーサポートの品質が背景にあることもあります。逆に、現場で改善が進まない原因が、調達の仕組みや上流工程にあるケースも少なくありません。

価値連鎖の視点を持つことで、それぞれの“点”が全体の中でどのような役割を果たしているのかを再認識することができます。これは、表面的な改善ではなく、構造的な変化をもたらすための強力な手がかりとなります。

◆価値連鎖は成長戦略の“地図”となる

価値連鎖は、単なる分析の道具ではありません。それは、企業が「どこに投資し、どこを伸ばすべきか」を見極めるための“戦略の地図”です。

また、経営者の頭の中にある“なんとなくの勝ちパターン”を言語化・構造化することで、組織全体で共有できる共通言語となります。スタッフが価値連鎖の全体像を理解することで、自分の仕事がどのように価値に貢献しているのかが見えるようになり、自発的な提案や改善も生まれてきます。

さらに、属人的な経営感覚を組織の資産に変え、チームで共有できる「思考の土台」としても非常に有効です。価値連鎖を理解することで、企業全体が“構造的に強くなる”という効果が期待できます。

◆簡易分析からの“深掘り”としての価値連鎖

自社の強みや弱みを把握する手段として、SWOT分析などの環境分析がよく用いられます。特に初期段階では、外部環境と内部環境を簡易的に整理するうえで有効です。しかし、そこで挙げられた“強み”や“弱み”が本当に正しいのか──その根拠や裏付けまで見えているケースは多くありません。

そこで、価値連鎖が重要になります。価値連鎖によって、実際にどの工程で価値が生まれているのか、どの活動にボトルネックがあるのかを具体的に把握することで、「強み・弱み」の実態を深掘りできます。それによって、戦略の精度が高まり、より現実的で実行可能な意思決定が可能になります。

大切なのは、価値は“点”ではなく、“流れ”の中で生まれるという視点です。だからこそ、価値連鎖の視点を持つことは、企業の成長戦略における最も実践的で構造的な武器になるのです。

2025.5.22
甘夏ニキ

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