中小企業こそ“戦略的意思決定”が必要、アンゾフ理論に学ぶ3階層の考え方
これまで、さまざまな企業や現場を見てきました。中小の工場、家族経営の会社、店舗運営の現場、規模は違っても、共通していたのは「判断が止まっている現場ほど、なんとなく空気が淀んでいる」ということです。
そして、そういう現場では決まって「誰が何を決めるのか」が曖昧なのです。今回は、「アンゾフの意思決定理論」を通じて、中小企業にとっての判断構造のヒントをお伝えできればと思います。
◆ アンゾフの戦略理論と3階層の意思決定
アンゾフは、企業の意思決定を3階層に分けました。
まずは①戦略的意思決定。これは、トップが行う「企業の進む方向を決める」判断です。たとえば、新規事業への参入や業態の転換など、ルールもマニュアルも存在しない“非構造的”な決断です。
次に②管理的意思決定。部門責任者や中間管理職が行う判断で、たとえば「どうやって販路を拡大するか」「どの業者と取引するか」など、戦略を現場に落とし込む中間レイヤーの判断です。
最後に③業務的意思決定。これは現場担当者による日常的な判断で、「今日のシフトをどう組むか」「在庫をいくつ発注するか」など、ルール化された中での反復的な業務判断です。
◆ 現場でよく見る“判断の混在”
私自身、いろんな現場に足を運ぶ中で、「すべての判断が社長に集中している会社」を何度も見てきました。結果として、社長は常に忙しく、戦略的なことを考える余裕がなくなります。一方で、現場は「言われたことだけやる」状態に陥り、改善提案や工夫が生まれません。
また、管理職がうまく育っていない会社では、「何をどう決めていいかわからない」となり、すべてがトップ依存に。会社の規模に関わらず、このような“判断のボトルネック”は珍しくありません。
◆ 一人でも“判断レイヤー”を意識する
ちなみに、私自身も一人で事業をしている部分があります。いわば「社長=管理職=現場責任者=自分」なわけです。それでもこの三層構造は有効です。たとえば、「これは長期戦略として考える」「これは今週中に決めること」「これは今日やること」と分けるだけで、思考の整理が進みます。
「自分の中での意思決定の構造化」は、特に一人ビジネスや個人経営者にこそ必要なのかもしれません。
◆ 判断の質は、役割の明確化から
現場に任せるべき判断を明確にし、管理者には裁量と責任を渡し、トップは未来を考える。これが実現するだけで、会社は驚くほど動き始めます。
もちろん、すぐに変わるものではありません。でも、意思決定の“型”を知っているかどうかで、日々の判断のスピードも、質も、大きく変わってくる。そんな現場をいくつも見てきました。
◆ おわりに
「全部自分で決めたほうが早い」は、短期的には正しくても、長期的には成長のボトルネックになります。アンゾフ理論のような古典に触れつつ、現場での判断構造を少しずつ見直していくことが、中小企業の成長を支える大きな一歩になるのではないでしょうか。
2025.5.20
甘夏ニキ