なぜ円安は止まらないのか?米景気悪化でも続く“円売り”の構造

2025年4月の米コアCPI(消費者物価指数)は前月比0.3%上昇と、物価上昇が再加速する見通しが示されました。前月の0.1%から加速した背景には、トランプ政権による対中関税の引き上げがあります。企業が仕入れコストを消費者価格に転嫁し始めており、インフレ再燃への懸念が強まっています。

一方で、米小売売上高などの経済指標は、景気減速の兆しを示しています。このため、一時は「利下げが視野に入れば、円安にも転機が訪れるのではないか」との期待もありました。しかし現実には、日米の金融政策の“非対称性”が再び意識される形となり、円安基調が続いています。

◆ 米国:景気悪化でも利下げできない“インフレの壁”

本来、米国経済が減速し始めているのであれば、FRB(米連邦準備制度理事会)は利下げを検討する局面です。しかし、今回の状況ではそう簡単には動けません。

インフレが再び加速しつつあるからです。関税引き上げによって企業のコストが増し、それが物価に転嫁され始めています。エネルギー価格の下落があっても、住宅費や医療費などのサービス価格は高止まりしています。こうした中でFRBが利下げを行えば、「インフレを抑える意志がない」と市場に受け取られ、長期金利や為替の不安定化を招くリスクがあります。

つまり、景気が悪化していても、利下げには慎重にならざるを得ないというのが、今の米国の政策環境です。

◆ 日本:トランプ関税の逆風で、利上げに踏み切れない構造

一方の日本は、2024年にマイナス金利を解除し、金融政策の正常化に一歩踏み出しました。しかし、そのペースは極めて慎重です。日銀は依然として、急激な利上げには否定的なスタンスを維持しています。

その背景には、構造的な低インフレと賃金の伸び悩みがあります。企業の価格転嫁力も限定的で、家計の購買力が強く支えられているとは言えません。

さらに、トランプ関税による自動車への追加関税の影響は、日本の主要輸出産業にとって逆風となりうるため、景気の不透明感を一段と強めています。外需の下押しリスクが高まる中で、日銀が積極的に利上げを行うのは一層困難になっていると言えるでしょう。

そのため、日米金利差は容易には縮まらないという見方が市場では根強く残っています。

◆ 為替は“見通し”で動く:金利差とリスク回避の構造

為替相場は、「今の金利」だけでなく、「今後の金利の見通し」に大きく左右されます。現在、市場は米国に対して「高金利が長く続く」、日本に対しては「大幅な利上げは難しい」と見ています。この“見通しの格差”が、円売り・ドル買いという為替の方向性を後押ししています。

また、リスク回避局面では伝統的に「円買い」が起こる場面も多く見られましたが、最近ではドルの流動性の高さと基軸通貨としての地位を背景に、「ドル買い」に振れる傾向も強まっています。

ただし今回のように、トランプ関税が世界経済と米国景気そのものに影響を与える構図では、ドルが“リスク要因そのもの”と見なされる可能性もあり、状況次第では再び円が安全資産として買われる展開もあり得ます。

◆ 円安はやはり“崩れにくい構造”か

2025年春、米国経済の減速やトランプ政権の通商政策などから、「円安にもそろそろ限界が来るのでは」という見方も一部にありました。米国が利下げを始めれば、金利差が縮小し、為替に変化が起きるという期待もありました。

しかし実際には、関税転嫁によるインフレ圧力が高まり、FRBは利下げに慎重姿勢を崩していません。一方で、日本は依然として大幅な利上げに踏み切れず、慎重な政策運営を続けています。結果として、円安基調を支える構造は、大きく変化していないように見えます。

もちろん、為替の先行きは常に不確実であり、突発的な地政学リスクや政策の転換があれば流れは変わる可能性もあります。ただ、現時点では、今後もしばらくは円安傾向が続く気配があると感じられるのが正直なところです。

こうした環境をふまえ、企業も個人も、「為替がどう動くか」に一喜一憂するだけでなく、変化に備えた持続可能な構えを取っておく必要があるのかもしれません。

2025.5.11
甘夏ニキ

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