EV覇権と半導体──日本が持つ最強の交渉カード

世界中でEV(電気自動車)市場が急速に拡大している現在、中国が圧倒的な影響力を持ち続けています。理由は、EVの中核部品であるバッテリー市場を掌握しているからです。中国は、リチウムイオンバッテリーの製造に必要な資源の調達から加工、製品化までのグローバルサプライチェーンを支配しており、多くの国やメーカーが依存せざるを得ない状況です。このバッテリー戦略は、中国の経済安全保障の柱といえるでしょう。

しかし、日本には中国のEV戦略を揺るがす「切り札」があります。それが半導体です。EVの製造には、モーター制御やバッテリー管理、さらには自動運転機能に至るまで、多くの半導体が必要です。これらの半導体がなければ、どれだけ優れたバッテリーを搭載していても、EVそのものが完成しません。

日本は、かつて半導体製造大国としての地位を失いましたが、依然として素材や製造装置の分野で圧倒的な競争力を持っています。例えば、シリコンウエハーやフォトレジスト、高純度ガスなどの半導体製造に不可欠な素材の多くは、日本企業が供給しています。また、製造装置では東京エレクトロンやSCREENなどの企業が世界をリードしており、日本がこれらの分野でサプライチェーンの中核を担っています。

ここで重要なのが経済安全保障の観点です。もし日本がこれらの素材や製造装置の供給をストップすれば、中国の半導体生産が滞り、それに依存する中国のEV産業全体が大きな影響を受けます。つまり、日本は「供給を止める」という選択肢を交渉カードとして持っているのです。

ただし、ここには一つのリスクがあります。それは「ブーメラン効果」です。日本が供給を止めれば、中国市場に依存している日本の素材メーカーや製造装置メーカーも売り先を失います。このリスクを解消するためには、日本国内での生産基盤を強化し、サプライチェーンを国内で完結させる仕組みを作る必要があります。具体的には、TSMC熊本工場のような半導体製造拠点を国内で増やし、そこで必要とされる素材や装置を国内市場で消化する仕組みを構築することが求められます。

日本が半導体に力を入れる背景には、単なる技術競争を超えた「国家戦略」があります。中国のバッテリー戦略がEV市場の主導権を握るためのものであるならば、日本の半導体戦略はその主導権を揺るがし、自国の産業基盤を強化するためのものと言えるでしょう。

日本がこの交渉カードを最大限に活用し、サプライチェーンの強化と国内産業の復活を進めることで、経済安全保障の観点でも他国に依存しない強い国を作ることが可能となるはずです。そして、その未来を築くための鍵を握るのが、まさに「半導体」なのです。

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